大学院生の引きこもりが3年かけて卒業を目指す日記

なんとか卒業して社会人になってしまったのでタイトルどうしようか検討中。大学時代の専攻は有機化学のすみっこ、今は混ぜ物系高分子材料メーカーの新入社員です

NHKアニメ「エレメントハンター」を見て化学者になった理系女子の話

2010年にNHKアニメ「エレメントハンター」が放送されていた。

 

 舞台は2089年元素が失われ天変地異が起こるようになった地球を救うため、次元を超えて任務に臨む少年少女たちの冒険とほのかな恋を描く。

wikipediaより)

 

近未来的世界観で少年少女たちが元素の力を用いて戦うという、エヴァンゲリオンデジモンとSFを合わせたような世界観の話でした。

ストーリー自体は少年漫画っぽくて私的にはあまり刺さらなかったのですが、世界観のコンセプトと各モンスターの特徴は面白く拝見していました。

私はこのアニメによって化学の面白さの虜になり、化学を志して、来年から化学メーカーの研究開発職に就職します。私がこの進路を取ったのはエレメントハンターのおかげです。

 

五酸化二窒素について

第一話だけは覚えています。「五酸化二窒素」という化合物を利用して、モンスターを固めるか何かして退治していました。

(210717追記:アニメを見返してみたら、該当の話は第4話でした。失礼しました。)

そこで私はびっくらこいたのです。「5?…酸化…2?…窒素…??一体どんな構造式なのだ…?」と。

 

当時の私は中学3年生で、「価数」の概念をちょうど学んだばかりでした。炭素Cは4本、窒素Nは3本、酸素Oは2本、水素Hは1本の手が生えている、ということを学び、二酸化炭素やメタンの構造式を覚えているところでした。

酸素の2×5 + 窒素の3×2を満たすような手のつなぎ方はどんなのだ…?と、学校の理科の授業中にノートの裏にせっせと書いて考えた記憶があります。パズルのようでとても楽しかったです。

ちなみに、この問題の答えを得るためには、大学の有機化学で「共鳴構造式」の概念を学ぶ必要があります。下のような構造式になります。大学で感動したことのひとつです。

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五酸化二窒素の共鳴構造式

 

 

エンディングテーマ「スイヘイリーベ ~魔法の呪文~」について

このエンディングテーマは、元素を原子番号順にひたすら唱える歌で、もちろん暗記しました。今でも覚えていて、今でも周期表の横ならびを思い出したいときは歌って思い出します。

現在は特に第三周期の遷移金属(Mn, Fe, Co, Ni, Cu, Znなど)を用いているので、そのあたりの順番がすらっと出てくるのは重宝しています。実際は縦で見ることも多いのですけどね。

ポップで覚えやすくて楽しい歌でした。

 

 

高校以降の思い出について

高校以降は別の記事に記しています。

ch2cl2.hatenablog.com

 

この記事を書いた時は、アニメ「エレメントハンター」のことはすっかり忘れていました。

 

そしてつい最近、2022年卒で化学メーカーの研究開発職で就職することが決まりました。念願の研究職です!やったね!!あと1年大学院で研究頑張るよ!!

 

 

Dr. STONEについて

私がこの記事を書いたのは、このTogetterを見たからでした。

togetter.com

Dr. STONEという漫画にハマった幼稚園児の息子さんが、化学式をノートに記していてかわいいという記事です。

私はDr. STONEという漫画を存じ上げなかったのですが、色々と科学的な要素が出てくるようです。

この記事を読み、そういえば私も化学アニメ「エレメントハンター」を見て化学者になったな、と思い出して記事を書きました。

NHKさん、ありがとう。あなたが放送したアニメのおかげで、私は化学者になりました。

今後も、このようにコンテンツによっていろいろな進路を目指す子供が出ると嬉しいですね。

はじめに現象ありき―化学の好きなところ

学部1年とかの頃によく考えていた話。

 

初めに現象ありき

化学という学問は、「はじめに現象ありき」なのである。

まずこういう現象が起こったから、それを説明するモデルを考えるという学問なのである。

高校範囲で言うと原子モデルとかの解明が分かりやすいでしょうか。あれはもはや量子物理学なので話が異なるかもですが。

大学範囲だと軌道の概念とか、不対電子の移動とか、配位子場理論とか、そのあたりの学問が典型でしょうか。まず化学反応のような現象があり、その現象はこの理論ならば矛盾なく分かりやすく説明できるのではないか、と理論を考え、そして検証する。そしてその理論では説明できないところは、例外として処理するか、別の理論を当てはめる。

こう、理論は絶対じゃないんですよ。例えば有機化学で言えば巻き矢印とかの電子の移動モデルで大抵の反応の機構を説明しますけれども、有機金属カップリング反応とかはその理論では説明しにくい。出来なくもないけど。触媒サイクルの方が書きやすいし、私は専門ではないので詳しくないのですが、金属の電荷とか配位子場とかいろんなファクターが加味するから、あの分野は基本巻き矢印を書かない。多分。専門外なので間違っていたらごめん。

私は化学の、とりあえずやってみて結果を出してから後付けで理論を考える姿勢が割と好き。特に有機化学の反応開発とかはそうらしい。私、一生に1回くらい、ゴリゴリの反応開発をやって1ヶ月で200実験やって条件のスクリーニングするとかやってみたいなぁ。その実験のノウハウを身に付けたい。せめてそういう人を隣で見て生活してみたい。

 

最近の研究が、反応開発のまねごとみたいになってきたんですよね。ロタキサン合成に使えそうな反応のモデル基質での条件検討。今Entry 14とかだったはず。この条件無駄かな?とか考えずにガンガンかけることにした。ちょう楽しい…!
あとほんとにおんなじ反応しかやらないから操作が慣れてくるんですよね。分液は後処理含めて20分で終わるし、カラムも簡単だから30分で終わる。これならすごく頑張れば1日10実験くらいも可能かもしれんなと思える。

 

 

狭く深い学問

こないだ高校の友人と話したんですよ。彼女は栄養学科出身で、大学で管理栄養士の資格を取得した。大学でどのような学問を学ぶのか気になったので聞いたところ、非常に多岐にわたる分野を勉強したと聞いた。

細かいところは忘れてしまったが、もちろん栄養学から、生物、化学、薬理学、法律、あと人とのコミュニケーション法など…。

卒業後実務で即戦力となるよう、数多くの実習とともに、実践的な知識と技術を身に付けるらしい。

(ちなみに、管理栄養士の就職先は病院がメインストリームらしい。私、そもそも病院に栄養士が要るということを知らなかったよ。栄養指導とかがあると全く知らなかった。他の就職先は、公務員となり保健所など、学校などの直接雇用、委託で栄養士を派遣するところ、あと食品メーカーなどと聞いた。記憶はおぼろげ。)

 

 

反対に、我々の学問は比較すると本当に狭く深くだなぁと感じる。

学部生レベルは基本的に、有機化学、物理化学、無機化学、あと生化学の分野を勉強する。私の専門の有機化学は、2年かけて1冊の教科書をひたすら勉強する。私の大学は「マクマリー有機化学」上中下合わせて1000ページ。この内容をひたすらひたすら勉強し、網羅的な有機化学の知識を得ていく。

もちろん化学も広いので、色々な分野がありますが、そもそも「学問」としてきちんと分けられている分狭いのだと感じる。

それから、まあ理学部だから当たり前なのですが、我々学生の学ぶ範囲が技術的区分から選ばれているのですね。工学部のように、目的から選ばれていないのです。宇宙工学のように、宇宙にまつわる知識を幅広く学ぶのではなく、「化学」をひたすら突き詰める。

別にいいとか悪いとかではなく、違いだなぁと感じる。

会社に入ったら、後者の考え方が必要なのだろうな、と最近就活していて思う。

たとえば化粧品メーカーに就職したら、化粧品を作るにあたって必要な広い知識を習得する必要があるのだろう。就職したらマインドセットを変更する必要があるな。

 

 

いつも以上に支離滅裂だけど上げる。

実験数は裏切らない。

実験数は裏切らない。

効率の意味ではやらない方がいい実験は確かにあるけれども、究極的に無駄な実験というものは存在しないから。

 

今年来た新しい助教のお言葉。私はこれを糧に生きていきたい。

 

正直文献読むより手を動かすほうが好きなことはハチャメチャにコンプレックスで、(学部時代に30単位落としていることもコンプレックスで)、そんな頭が弱くて手を動かすのが好きなら研究職なんかには就職できなくて、そんなお前は時給1500円の派遣の作業員でもやるべきなんだよ、と頭の中の敵がささやく。でも時給1500円じゃ家族を養っていけないから!だから就活をしなければならない!!

 

頭でっかちよりは実験を沢山した方がいいよと、その方がいいよと助教が言ってくれたから、私はその言葉を信じて生きていく。私は生きていてもいい。生きている価値がある。私を必要としている企業はきっとある。

 

 

私、10月に復帰してから4か月で85実験やっていて、反応開発でない合成系のテーマで、就活もやりながらこの実験数なのは、そこそこ自信になるというか、私の持てる全力で研究に臨んでいる自負はある。のだけれど、ゴリゴリ反応開発系は月に2,300実験やるらしい。どうやってそんな頭おかしい実験数が出来ているの?単純計算で1日に10実験くらいやっているペースになるけれど、そんなの24時間ずっと実験していたところで終わらない気がする。1日にカラム10本とか終わる気がしない。1日のスケジュールが知りたい。ガチで知りたい。参考にしたい。

 

 

という訳で、私は「実験数は裏切らない」という助教の言葉を胸に今日も楽しく実験をやることにした。「この実験やる意味あるのだろうか・・・」とか考えずに、実験やってみてからこの条件駄目だったねやり直し、くらいの感覚でいいのかな。幸運なことに試薬代はケチられないし!という気分で実験を行うこととする。

 

 

今気づいたのだけど、有機化学が体育会系だと言われるのって、こういう「とにかく多少効率悪かろうが沢山実験してからでないとお話にならない」という価値観だろうか。

別に厳しい上限関係とか全く無いから、うちは体育会系じゃないなぁと思っていたが、そういうことではないのだろうか。

2/16 就活に関する雑感

ツイッターよりこちらの方が恥ずかしくないので。

 

・就活は、会社が求めている人間に自分の価値観をチューニングしていくに近い。だって新卒だし私はそんなに譲れない価値観は多くないから。

・例えば化学メーカー、化学業界・素材業界が挙げる自分らの業界の強みとして、「取引業界の幅広さ」「ニッチな分野で世界No1の製品が多い」「グローバル展開しており海外取引先とも仕事ができる」「売上高日本2位の大きな業界規模」「高い営業利益率、高い研究開発費比率」などを定番に挙げていて、それが本当に私にとっていいと思うのか正直働いてみないとよく分からないから、そういったことを良いと感じるように、沢山の企業の説明会を受ける中で価値観をチューニングしていく感覚で就活をしている。

 

・うちの会社儲かってるなぁと思いながら仕事をしたいな。皆そうだけれども。就活生だし意識高くいくよ。

・その「儲かってるなぁ」って何なのだろう。それならば大手に行った方がいいのだろうか。

・なぜそう思ったのかと言うと、例えば大学生の時ダイソーでバイトしていたのだけれど、小さい割にめちゃくちゃ儲かっている店舗で、いわゆる大型店舗を除いたら指折りに高い売上高だった。それがめちゃくちゃ快感で、レジはピークの3時間常に10人以上並んでいるのをひたすら裁くような感じでものすごく忙しかったのだけれど、それでも売り上げ高が高いから嬉しくてそんなに苦ではなかった。

・それから今大学院で研究をやっていて、「正直ライバル研究室の方が3歩くらい先のいい研究をやってるんだよなぁ。我々は正直遅れているのかしらん」と常に思いながら研究を行っていて、それはそこそこのストレスである。「我々は世界トップだ、時代をリードするんだ」と思いながら研究を行うことは至上の快楽なのでは?と思わなくもないから。

・そうなると超絶大手なメーカーを目指した方がいいのだろうか…、分からん。

 

 

・あと私こないだ気が付いたから宣言しておくのだけれど、入社したら様々な価値観が変わる気がするし、それは恐れることでも恥ずかしがることでもないし、だから「今の私の価値観」を信じて就活をしていい気がした。今私がいいと思っている価値観が違っていたらどうしよう。間違っていたと後から気が付いたらどうしよう、と思って恐怖していたのだけれど、それは普通だし、入社してから違ったな、と思ったら3年で転職すればいいんだ、多分。

 

だから、今の私は、化学科の学生がメジャーで行くから化学メーカーに就職したいと思っているし、分野で言えば有機合成か、もう少し拡張して有機高分子合成がやりたいし、つまり製品で言えば

  • 機能性高分子(樹脂・プラスチック・フィルム・ポリマーなどの言葉の方がイメージがしやすいか)か、
  • ゴリゴリ低分子有機合成系(農薬、医薬原体など)

を希望している。そしてその2択なら市場規模と取引業界が前者の方が広い。つまり受けられる企業の選択肢が広い、入ってから選べる分野が広い、言い換えれば潰しがききそう。だから、今はどちらかと言えば前者を希望している、ということである。

そしてこの価値観を私は信じる。1年後違ったな、と思ったとしても、それはそれでいいので、転職したいならすればいいし、まあここでいっか、と思ったらそのまま居座ればいいのだ。

 

だって私高校生のときは博士に進学するつもりマンマンだったけれども、今はその選択肢は全く見ていないし、それは別に後悔していない。高校生の頃から今まで思い描いていた、私のやりたい「研究」というものは、多分アカデミアでなく企業での研究開発の方が近い気がすると気づいたから就職するのである。

3年生の時も、今の私には有機化学のそれぞれの研究室の研究内容について、どれも面白そうだし違いが分からないから雰囲気で決めよ、と思って斎藤研究室にした。そしてその選択は間違っていなかったと思っている。

今の私はもう少し知識がついて、研究内容に対する解像度が上がったから、それぞれの研究の違いとか、分野の違いとか、面白さの違いが分かる。正直椎名研究室みたいな古典的ゴリゴリ有機合成の方が王道感があってそっちが良かったなと思う瞬間は結構ある。

だから各化学メーカーの製品や取引分野に関しても、今の私はそんなに解像度が高くない。人より余計に1年やって去年よりは上がった。だからどこかの会社に入社後に解像度が上がって「あっちの分野の方が良かったな」と思ったとしても、それはまあ神様の思し召しと言うことで過ごすし、どうしてもなら転職すればいいと思う。

転職難しいのかな?同業他社に転職って難しいのだろうか?素材メーカーから農薬メーカーとかに転職って難しいの?学ぶ分野が違うし難しいのかな?分からん。誰か教えて詳しい人。

 新卒としては、迷ったならば、新卒では入れるが転職では難しい方を志望したいよ。

 

 

ついでに言うと私の今の研究分野は、敢えて言えば構造有機化学と合成有機化学の間のような分野で、椎名研究室みたいな、ゴリゴリ古典有機合成や反応開発じゃないし、そのような分野の学生に比べれば、私は他の分野の勉強もしているから単純な有機合成の知識は足りないと思うし、錯体や高分子や材料に片足突っ込んでいるし、その意味でもむしろ高分子の方が私は向いているのでは…、みたいな思いはある。

 まあ多分そこにコンプレックスを抱く必要は無くて、多分十分有機化学は勉強してきているから、私がやりたいと強く希望すれば農薬や医薬原体のような研究は出来るのだろう、と信じている。

 

 

私、人生の途中で自分の価値観を変えることに対して、非常に良くないことで恥ずべきことと思っている節があるのだけれど、多分そんなことは無いんだろうな。人間の価値観は時代や状況や環境や年齢によって移ろいゆくもので、それは自然なことだし、多分ちっとも恥ずかしくないんだろうな。頭では理解している。朝ドラ「花子とアン」で平塚らいてうも「考えは変わる物なのよ」と言っていた。

小学生の時に読んだ小説「おてんばエリザベス」で、最初エリザベスは親に入れさせられた全寮制の学校にものすごく行きたくなくて、こんなところすぐに出て行ってやる、どうにかして出て行ってやると色々計画していたのだが、いつの間にか価値観が変わったのか「こんな学校喜んで過ごしたいわ!」と言っていて、私はそのエリザベスが非常に恥ずかしい存在だと、当時思ったのですね。

でも多分そんなこと無いんでしょう?エリザベスは別に恥ずかしいやつでもないんでしょう?

もっと具体例を挙げれば、なんだろ、司法試験を諦めて民間就職するとか、第一志望校は今の偏差値より3ランクくらい上を志望しておいて、結局その2ランク下の学校に落ち着くこととかは、別に普通なのでしょう?むしろ他人は結果しか見ないからそんなことどうでもいいんでしょう?

 

 

 

 

 

私、住めば都だと思う精神が高いから、誰が見てもブラック企業に入ったとしても、この会社は最高だと思える自信がある。だからこそいい会社に入りたいけどね。ブラックだと感じる能力が低いから悪い価値観に洗脳されそうだから。いい価値観を持っている企業に入りたいね。

私会社に指示されたら詐欺も横領も粉飾決算もやる自信がある。だからそんな指示をされないクリーンな会社がいいなあ。

 

 

今の研究室だって教授のパワハラはひどいが、でもいい研究室だと思うし、入ってよかったと思うもの。

 

 

 

 

・話は変わるが、全国どこでもいいですで就活していたけれど、やっぱり関東に就職したくなってきちゃったな。選べば関東に研究所がある会社って結構あるんだなあと知ったというのもある。大手でないとさらに増える。それならそっちの方がいいのかなぁと最近思ってきちゃった。

去年から、関東に研究所があれば10点くらいは加点していたが、大阪に研究所があると聞くと20点くらい減点する感じに価値観が変わってきた気がする。

ただし、親の出身は広島なので、中国地方ならむしろ可である。

 

 

・あとそれから、理学部化学科にわざわざ希望して入った人間として、「研究開発職」を希望する、と主張するプライドくらいは持っておこうと思った。もちろん他の分野が悪いわけではなくて、それぞれの面白さがあると思うし、実際新卒で生産技術や技術営業に配属されたとしても、やる気をもってやりますが、やはり理学部出身のプライドとして、私は研究開発がやりたいと主張する。

ちなみに基礎研究と応用研究(開発)はどちらでもいいと思っている。そこを区別する解像度が私はまだない。

 

 

 

以上つらつら書いた。

推敲せず上げる。

 

 

オープンキャンパスでよくある質問

何かあったら困るから大学名伏せるけれど、それだと求めている人に絶対伝わらないんだよなぁ。まあ自己満足だし伏せたままでいいか。神楽坂の理系大学です。

 

私が研究室に所属してから、何回かオープンキャンパス時に高校生の研究室見学を案内したことがあります。その際によくあった質問を思い出し、解答を記録しておきます。

 

留年について

 当大学と言えば留年という印象をお持ちかもしれませんが、化学系ではそんなことありません。普通に勉強していれば普通に進級できます。仮面浪人などを除いて留年する学生は毎年数人もいません。とはいえ勉強していないと単位は結構あっさり落ちます。翌年再履修です。しかし落単位を見越した比較的余裕のある卒業要件になっているので、ほとんどの学生が4年で卒業できます。

 私は指折りにギリギリな方の学生でしたが、1年次に6単位落とし、2年次に20単位くらい落とし、3年次も4単位落として、本来は4年生は授業が無いのですが4年次に4単位をもう一度履修して、どうにかギリギリ4年で卒業しました。これを目指してはいけませんが、こんな学生でも大学院に進学して楽しく研究はやれます。

 他の学科では留年率は異なるようです。特に電気電子系は留年しやすく、半分くらい留年するとの噂も聞きます。

 

サークル活動について

 意外にもこの質問は多かったです。勉強ばっかりしていて遊べないんじゃないか…?みたいな。

 結論から言うとそんなことはないです。学生は皆部活動・サークル活動やアルバイトなどに熱心に取り組んでいます。私もサークルで飲みまくっていましたし、アルバイトは接客と事務職と3種類やりました。文化祭の運営などのサークルに所属する学生もいますし、体育会に所属して毎日のように練習に明け暮れる学生もいます。サークルなどから過去レポや過去問が回ってきますので、非常に有難いです。他のサークル活動が盛んな総合大学と比較すると規模は小さいかな、とは思いますが、それでも十分だと思います。

 むしろ大学に入って予想よりも華やかな学生が多くてびっくりしました。理系なんて陰キャの集まりだろうと思っていましたがそんなことなかったです。化学科だからかな…学科によって違うのだろうか…。

 この大学に入学できる皆さんなら十分に、勉強したうえで部活やアルバイトも効率的にできる、勉強習慣や体力やノウハウをお持ちだと思うので、あまり心配しないでください。

 

 

研究室の配属はどうするのか

 当大学では4年生から研究室に配属されます。そして、当大学では卒業研究は必須ではありません。学生全員分の枠を用意していません。1研究室に平均6~10名程度(教授の裁量による)×10研究室で単純計算で60~100名の枠があり、化学科の学生の人数は100-120名、多い年は160名になるので必然的にあぶれます。

 学生は3年生の終わりに卒研配属希望を出し、教授と面接行い、教授がどの学生を採るかを決めます。この選考基準は完全に教授の裁量で学生からすればブラックボックスです。成績がいい方が基本有利になりますが、必ずしもそれだけが基準ではありません。研究室での集団生活をうまく行えるコミュニケーション能力を重視する教授も多いです。年によっては2倍以上といった本当に苛烈な倍率になります。

 また、当大学の理学部の化学系の卒研配属は、化学科・応用化学科・2部化学科の3学科合同で行います。学生は3学科の研究室の中から好きな研究室を選ぶことが出来ます。私の研究室は化学科の教授で、化学科から入ってくる学生が多いですが、応用化学科や2部化学科から入る学生も常にいます。

 また、外研という制度もあります。当大学に籍を置いたまま、他大学の研究室や他の研究所に所属して研究を行う制度です。基本的に教授の人脈により外研の研究先に派遣されます。私は進路の選択肢に入れていなかったのであまり詳しくありません。この制度により、教授の直接の専門ではなくても、幅広い研究分野を学生が選ぶことが出来ます。

  他の大学では、「学生全員で話し合って全員の配属を決定する(東工大)」、「第三希望まで出して成績順に配属を機械的に決める」などの例があり、学生の研究室配属については各大学で差があるようです。

 

 

卒業後の進路は

 ちゃんとした数字は学校が出しているデータを見ればいいと思うので、私の肌感覚を伝えますね。まず大学院進学率は約7-8割です。これは外部の大学院に進学する学生も含みます。内部進学だけだと半分程度でしょうか。

 学部卒は民間企業に就職することがほとんどです。いわゆる文系就職をする学生も多いですし、学部生でも理系職(技術職)として採用する会社もあります。私は行わなかったので詳しくないです。

 修士卒での進路は

  • 化学メーカーの技術職:研究開発、生産技術、品質管理、知的財産、技術営業など。これがメインストリームな選択肢だと思います。
  • 化学系以外のメーカーの技術職:人気な業界は、化粧品、日用品(花王など。化粧品業界の一部という印象)、食品、製薬など。これらは化学業界とは業界が異なります。私はB to Bを希望していたため余り見なかったので詳しくないです。化学系以外の学生からも人気な業界であり、狭き門な印象があります。
  • 企業へのいわゆる文系就職:近年は企業も研究経験を積み論理的思考力のある修士卒の学生を多く求めているようです。私は選ばなかったので詳しくないですが、IT, コンサルなどの業界をよく聞きます。
  • 教員
  • 公務員(技術職、一般職、総合職)
  • (博士進学)

などでしょうか。

 

化学業界について

 日本の化学業界は、売上高は自動車業界に次ぐ日本第2位の大きな規模を持ち、安定した利益を創出している業界です。主にB to B(ビジネスtoビジネス)なので一般知名度は低いですが、優良企業が数多くあり、当大学から大手化学メーカーに数多くの学生が就職しています。

 せっかくなのでもう少し詳しく化学業界について話します。就活にあたり耳にタコができるほど聞いたので、皆さんも就活する段階になったら飽きるほど聞くと思います。

 化学メーカーにも川上から川下まで様々な領域があります。化学製造業は、石油を扱うエネルギー系→それをポリマー(プラスチックなど)などに加工する素材系→そこからさらに接着剤、塗料、香料、自動車や電化製品の部材、農薬、医薬品の中間体などを作る部材系→(様々な最終製品業界)とざっくり流れていきます。上から下まで手広く扱う総合化学メーカーもありますし、ある1分野に特化したメーカーも多くあります。

 

博士について

 博士への進学率は当大学は高くありません。内部進学でそのまま博士に進学する人は学年で数人です。ただし、私はよく知りませんが、修士から他大学に進学しそのまま博士になる人はそれなりの数いるのではないかと思います。

 個人的な意見では、博士を取りたかったら旧帝大(特に東工大・東大)などの他の国立大学の院への進学をお勧めします。周りに博士が多くいる環境の方が情報も多く入るし過ごしやすいと思います。メインキャンパスでない場所(すずかけ台駒場)の研究室は比較的門戸が広いとの噂を聞きます。

 逆に言えば修士卒で就職するつもりならば無理に他大への進学をする必要はないと思います。我々の大学は、知識と技術をレベル高く習得している上で素直で教育しやすい、企業にとって使いやすい学生を放出する教育を行っているように感じます。

 これは想像ですが、学生が取る進路の雰囲気が、東大・東工大・京大とそれ以外では大きく違うのではないかなーと思っています。その辺に知り合いがいないから分からないけど。

 

化学科と応用化学科はどう違うか

 私の解釈ですが、結論から言うと大きく違いはありません。

  • 講義で勉強する内容は大きくは同じ(有機化学、物理化学、無機化学、生化学ほか)
  • 研究室配属は化学科・応用化学科・2部化学科の3学科合同で配属を決定する

以上の理由により両者に大きな違いは見られません。入試の際の偏差値にどうしてそれなりの差が出ているのか不思議なくらいあまり違いがありません。日本は化学産業が大きく発展しているため、他の分野と比較して基礎研究と応用研究が割合シームレスだと思います。どちらを受験するか迷ったら入試日程で決めたらいいんじゃないですかね。

 

 とはいえ細かくは違いがあるので一応書いておきます。

  • まず教授陣の研究内容、ひいては専門科目の授業内容が少々異なります。特に興味のある研究分野が固まっているのならば、そのあたりを見るといいと思います。ただ高校生の時点でそこまで固まっている学生なんてごく少数ですよねぇ。見分の狭い高校生の時点での興味はきっと数年で移ろいゆくし。
  • 化学科は教員免許を取る学生が一定数いることが大きな特徴です。化学科の特徴は何?と聞かれるとこの点を答えます。近年教員免許を取得する学生は減少傾向ですが、大体1-2割くらいいるのかな?
  • 学生の雰囲気は若干異なるかな、と感じます。年に寄るし言語化は難しいので詳しく語りませんが、応用化学科の方がかわいい女の子が多いと感じます。何故かはよく分かりません。

 

 ただし、同じキャンパスの工学部工業化学科とは履修内容が異なります。工業化学科では、我々が学習する化学の範囲のほかに「化学工学」という分野を必修で履修します。化学品の工業的生産法や、生産を行う上で必要な技術や知識を習得するようです。特に就活の段階では「化学」と「化学工学」は分野が異なり、前者は主に研究開発、後者は主に生産技術を担います。ただし比較的近い分野なので就職後にこれらの分野の行き来は十分にあり得ます。また学部が違うので学内の単位習得要件などが異なるようです。他のキャンパスにある化学系の学科についてはあまり詳しくありません。すみません。

 

 

 

とりあえず以上。また思いついたら追記します。

不安定=高い反応性を理解したとき

化学にまつわる概念で特に印象に残っていること。

不安定=高い反応性」が結びついたとき、非常に感動したことを覚えている。

 

最初に理解したのは高校2年生のときだったとは思う。あまり覚えてはいない。

当時の私は化学物質に対し、「良い」「悪い」の二元論でしか考えていなかった。不安定な物質は悪い物質、高反応性な物質はいい物質、と勝手に思っていた。しかし化学Iの授業で様々な概念を学んでいるうちに、どうやらその二つの性質はほぼ同じことを指しているっぽいぞ、と理解した。つまり同じ物質でも見方によって良いとも悪いともいえるのである。

 

 

 

現在研究室で研究をやっていて、さらに新たに染み付いた概念は、「高い反応性=危険=扱いにくい」ということである。

例えば反応試薬の検討を行う場合、目的の反応性が進行するギリギリの低さの反応性を試薬を選ぶ作業は非常に面白い。できるだけ安定で扱いやすい試薬を選択したいのだが、目的の反応が進行しなければ意味が無いので、どの試薬が最適か考える必要がある。

反応基質に関しても、適切な安定性-反応性の物質が最も望ましい。安定な基質は適当に保存していても大丈夫であるが、その分反応しにくいので次の反応の際に加熱などの過激な条件が必要だったりする。反対に室温で分解してしまうような不安定な物質は、基本的に扱いづらいので好まれないのだが、それは様々な反応が容易に進行することの裏返しでもあるため、場合によってはそのような基質が望まれることもあるのである。

 

さらに具体例を挙げると、還元剤・リチオ化剤・塩基などを選択する場合が一番分かりやすいかな。

化学系の学部生が習う最も有名な2つの還元剤は、NaBH4とLiAlH4(LAH, ラー)である。どちらもヒドリド(H-)を放出することで、カルボニル化合物をアルコールへ還元することが出来る、非常にポピュラーな試薬である。

これらの還元剤の反応性は、NaBH4 < LiAlH4である。NaBH4はアルデヒド・ケトンしか還元できないが、LiAlH4はそれらに加えてエステル・カルボン酸も還元可能である。

では何でもかんでもLiAlH4で還元したいかと言うとそんなことはない。LiAlH4は非常に危険な試薬だからである。

NaBH4は適当に扱っても問題ない試薬で、学生実験でも使用されるが、LiAlH4は静電気などの微弱な刺激により容易に発火するため、非常に危険で取り扱いに注意が必要な試薬である。当研究室ではここ3年で4回LiAlH4を発火させている。そのうち1回は私である。そのため、NaBH4で問題が無いのであればできるだけそちらで済ませたい。

このような感覚は実際にその試薬を扱ってみないと身につかない。私が学部生の時、「どうして2種類も還元剤を覚える必要があるのか。1つでいいじゃないか、面倒くさいなぁ」と思っていたが、紙の上だけでは分からない沢山の事情があることを、実際に実験を行うようになって理解した。紙の上で分かりやすい反応と、実際に反応を行う上でやりやすい反応は全く異なるのである。

 

リチオ化剤(n-BuLi<t-BuLi)や塩基(例えばK2CO3<NaOH<LDA)などにもそのようなことが言える。さらに単純な反応性だけではない、基質特異性や試薬の値段などのファクターを加味して、適切な試薬を選択する必要がある。

 

一応言っておくと、これらの試薬の選択は非常に難しいのではないかと思うのかもしれないが、そんなことはない。100年以上続く有機化学の歴史によってポピュラーに体系化されており、いわば無数のマニュアルが有機化学界に転がっている状態であるため、そのマニュアルに従うという印象が強い。ある反応を行いたいときのファーストチョイスは、研究室の経験則的な言語化出来ないものも含め、大抵はある程度確立されている。

例えば脱メチル化反応のファーストチョイスはBBr3だと思う。それでだめなら5種類くらいメジャーな試薬はあるので、それらを試してみて反応がうまくいく条件を探すし、鈴木宮浦反応や薗頭反応等のPd系カップリング反応で使用するPd源のファーストチョイスはPd(PPh3)4だと自分は思っているし、それでだめならさらに好反応性のものを順番に試していく。参考にできる論文は沢山転がっているので、それらを参考にする。

これらの「知見」を参考に、適切な条件を選択する作業は私は結構好きである。有機化学の面白いところのひとつだと思う。

 

 

以上、思いついたことをだらだらと書いた。

こうやって言語化すると、成績が底辺だったとはいえ一応大学で知識付けたんだな、私、と思えますね。

 

 

本日は以上。

 

 

 

 

 

 

 

研究を通じて身に付けたスキル

私の研究テーマは、偶然にも比較的自由度の高いテーマになっていて、全体を通した目標はただ一つ、「何でもいいからいい感じのロタキサン合成法を開発する」だけである。

私の研究テーマは、一般的な金属触媒カップリング反応開発研究と同じだと解釈すると分かりやすいと思う。わっか分子がリガンド、軸分子が基質である。

 

「いい感じの」の方向性はいくつかあると思っていて、

・条件の新規性(より低温・短時間)

・基質の新規性(軸構造の新規性、すなわち新しい反応を利用する。ロタキサン合成に利用する反応自体は既知でよくて、まだロタキサン合成に利用されていない反応をチョイスする。)

・金属の新規性(安価だったらなおよいが、単に新しいだけでもいい。)

 ・リガンドの新規性(これは既存のリガンドでは達成できないものが達成できる、というストーリーは必要である。)

これらの新規性のうちのどれか、もしくは複数を満たすプロジェクトを計画する必要がある。

 

先生からアイディアとして頂いたものや、自分で思いついたアイディアはいくつかストックしているので、その中からまずどれをやるのかチョイスし、具体的にどのような段階を目標にするかを定め、具体的に何をするべきかを考えてまとめて(その間に文献調査なども必要で(キライだけど))、そして実行する。大抵途中で壁にぶつかるから適宜修正する。

そして最近は諦めるタイミングが分かってきた。当初の期待から逸れた結果が出た時に、もう少し条件を変えて検討してみるか、芽が出なさそうだから諦める(一旦放置するということにする)か、私が選択する必要があることに最近身をもって感じている。

ちょうど先週2つくらい研究に行き詰まった。一つはまだまだ取れるプランBが沢山思いつくのでまだ粘り強くやりますが、もう一つの方は根幹の仮定が期待とずれていたということが分かったので、頓挫させることを決めた。

常に「次は何をするか、これがうまくいかなかったら何をするか。この失敗を受けたプランBをやるのか、はたまた諦めて新しいことをするか、新しいことをするならストックのうちどれか」みたいなことを考えながら研究を行う。

 

 

 

就活するにあたってこんなことを考える必要があるのですよ。面倒くさいですね。