大学院生の引きこもりが3年かけて卒業を目指す日記

なんとか卒業して社会人になってしまったのでタイトルどうしようか検討中。大学時代の専攻は有機化学のすみっこ、今は混ぜ物系高分子材料メーカーの新入社員です

有機農業はどうして「有機」農業と言うのか

有機農業ってどうして有機農業と言うのだろう?

有機農業って要は農薬を使わない農業だろうけど、農薬ってめっちゃ有機物じゃん。

と思って少し調べました。

 

 

 

化学界隈における有機化合物(organic compound)の定義は以下になるwikipediaより)

有機化合物とは、炭素を含む化合物の大部分をさす。

 

そのため、世にある結構な割合のものが有機化合物である。

人々が目にするもので言えば、医薬品、農薬、アミノ酸・タンパク質・糖・ビタミンなどなどから成る食品、香料、石油、プラスチック、ゴム、繊維など、塗料、化粧品、洗剤なども有機化合物からなる。

有機化合物の対は無機化合物で、定義からして「有機化合物に含まれないもの」が無機化合物である。主には金属など。身近なものだと、金属製品、宝石、ガラス、セメント、セラミックス、半導体、電池などでしょうか。

 

 

 

 

さて、農林水産省のHPから有機農業の定義を引用する。

有機農業の推進に関する法律」による有機農業の定義は以下のとおりです。

  • 化学的に合成された肥料及び農薬を使用しない
  • 遺伝子組換え技術を利用しない
  • 農業生産に由来する環境への負荷をできる限り低減する

農業生産の方法を用いて行われる農業です。

 

 

有機、という言葉の辞書的意味を調べてみる。

  1. の解説
    1.  生命力を有すること。生活機能を有すること。

    1.  有機物の性質をもつこと。

    1.  「有機化合物」「有機化学」などの略。⇔無機

      goo辞書より

 

 

ふむ。どうやら「有機」という言葉を有機化合物と同義で使うことは化学者の傲慢だったらしい。

wikipedia有機化合物の欄に詳しい解説が書いてありましたね。

 

 

有機化合物、無機化合物用語が生まれた18世紀末より前にも、有機体 (organisms) という言葉は存在し、生物と同義で使われていた。当時は今でいう有機物は生物の付属品と考えられていた。

18世紀末、イェンス・ベルセリウスは物質を生物から得られるものと鉱物から得られるものとに分け、それぞれ「有機化合物」「無機化合物」と定義したことが始まりらしい。

後に当時有機化合物に分類されたものも人工合成できることが発覚したためこの定義は修正され、上記の定義に落ち着いたが、本来「有機(organic)」には「生物の、生物由来の」といった意味があるのだ。

 

 

だから「有機農業」を自然の肥料だけを使った農業の意味で使うことは本来何も間違っていないのだ。

エセ科学っぽいからという偏見で間違った意見を持っていた。我々化学者の側が言葉の意味を曲げて使ってしまったのだ。

 

 

有機」「無機」を使う一般用語に以下のものがある。

  • 有機的な:有機体(生物)のように、多くの部分が緊密な連関をもちながら全体を形作っているさま。
  • 無機質な:生物が関与していないと思わせるさま、命が感じられない様子。あたたかみのない。殺風景で味気ない様子。

なるほど、以上の意味を考えても、有機とは生物っぽいことで、無機とは生物っぽくないことなのだ。我々化学者の側が言葉の意味を曲げて使ってしまったのだ。

 

 

 

こういう、ある言葉の一般的な用法と、科学的な用語としての用法にずれが生じてしまうことって結構あるよね。新しい概念を定義する際に既存の言葉で運用してしまうからでしょうかね。科学用語は定義が厳密だが、一般用語は定義よりもイメージが大切だからね。

法律用語もこういったことが多いイメージ。例えば法律でいう「少年」は一般で言う少年少女を指すらしいじゃん。

化学界もそういった言葉多いだろう。中にいるとパッとは思いつかないけど。先に上げた有機・無機もそうだし。

 

 

 

 

という訳で、「有機」とは本来は「生物由来の」を指す意味であり、それゆえ生物由来の農業、というニュアンスで合成肥料を使わない農業を有機農業と呼ぶことは間違っておらず、化学界が定義した「有機化合物」の方が後釜であり、本来の意味からはずれているのだ、という結論を知ったところで終わりにします。

私は今日もまた一つ賢くなれました。