大学院生の引きこもりが3年かけて卒業を目指す日記

なんとか卒業して社会人になってしまったのでタイトルどうしようか検討中。大学時代の専攻は有機化学のすみっこ、今は混ぜ物系高分子材料メーカーの新入社員です

Jounal Club Expressの記録

おそらく一般には、『抄録会』が通じると思うんですよね。

論文を一つ選択して、その要旨をA4 1-2ページにまとめて、その内容を発表するゼミの一種。

弊ラボではJounal Club Express (JCE) と呼ぶことにしていますが、コロナの昨年度から助教の提案で始まった新しい試みなんですね。

 

私今回始めてその原稿を書いたので、その感想を書きます。論点が取っ散らかりそうですが、そうならないように気を付けて書きたい。

 

 

選んだ論文について

M1以上は、自身の研究テーマとの類似性とかあまり考えず好きに選んでいいよ、と助教に言われたので、マゾヒスティックに自分の専門とは離れた分野の論文を選ぼうと思った。

結局ロタキサンの論文にしてしまいましたが、以下の論文です。

 

Using the Mechanical Bond to Tune the Performance of a Thermally Activated Delayed Fluorescence Emitter

機械的結合を利用した熱活性遅延蛍光エミッターの性能調整

Angew. Chem. Int. Ed. 2021, 60, 12066 –12073.  DOI: 10.1002/anie.202101870

https://www.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/anie.202101870

 

有機EL材料の分野の論文で、TADFという新しい仕組みの発光を示す化合物を、ロタキサン構造の機械的制約によってコントロールした初めての報告になります。

Angewandteのcorrent issueにちょうどあったので、hot paperだし、私が眺めていたら助教先生が興味も示すし、もう最初のJCEにはこの論文しかないと思って選びました。

 

光化学も分光化学も計算化学も全く分からなくて、知らない用語だらけでひいひい言いながら読みました。

頑張って勉強した用語をA4にまとめたのだけど、発表では使わずに日の目を見なかったからここにアップして供養するね。

TADFとは (PDF)

 

ついでに言うと新しい助教先生の研究内容は、(秋に聞いたきりだからあまり覚えていないのだけど)、フォトルミネッセンスとかの研究もものすごくやっていた方なんですね。だから多分助教先生はこの分野にすごく詳しい。今年からの新入生は新しい助教先生の研究テーマをやる訳で、記憶の限りあからさまに有機発光材料みたいな研究テーマの学生はいなかった気かするけど、このへんの研究を後輩が扱うことになった場合に、上の学生たる私 が分かっていないとまずいじゃん?という訳で目を通したかった。

せっかく大手を振って論文を読み込めるなら、自分一人のモチベーションでは投げ出してしまいそうな難しい論文を選びたかったのですよ。でも我々の専門もロタキサンも利用しているからなんだか選ぶ理由がありそうな論文じゃない??

という訳で目的に適った論文のチョイスだと我ながら思う。

 

我々の研究室の研究内容について

助教先生に昔聞いたところ、アクセプトされている内容だったら研究について別にブログで言っても問題ないよ、と言われたので、以下の内容はここで書いても問題ないと判断しています。)

 

我々の研究室の専門はロタキサン合成なんですね。しかも比較的マイナーな合成法を専門に取り組んでいるんです。触媒的スレッディング法(一般にはおそらくアクティブテンプレート法、の方が通りがいいと思う。しかしうちのボスがスレッディング法と名付けたのでそう呼称します。)という方法なんですけどね。詳しくは省略します。うちの研究室のHPでも見たほうが早いわ。

ただその応用とか、解析とか、そういったところは全く門外漢なんですよ。(応用はちょっとだけやっている。そんなに花開ている訳ではない。そして私の研究テーマは合成の研究テーマであり、応用分野ではない。)

 

この分野って、いわゆる分子マシンみたいな超分子化学に足突っ込んだ分野なんですけど、じゃあ我々(私)がそのような研究分野に明るいかと言われると全くそんなこと無くて、私は研究室生活4年目にも関わらずロタキサン構造がどのような分野に応用されているかよく知らないし、超分子分野に片足突っ込んでおきながらこの研究分野の進展や最新情報を全くと言っていいほど知らない。これはねぇ、本当にめちゃくちゃコンプレックスなんですよねぇ。

なーんかいい感じの総説でも読んだ方がいいのかしら。もう何から手を付けたらいいか分からないのよね。半年前からずっと思っているのですけど。

 

 

本家Jounal Clubについて

弊ラボが以前から毎年行っていた、本家のJounal Clubについて書いておきます。

内容を正確に表すならば、『全合成論文を用いた有機化学の反応機構等の勉強会』と呼称するのが適切だと考えています。

天然物などの全合成論文を一つ選択して、その原料合成から、全ての工程の反応機構と立体選択性その他を詳細に記述する、ゼミの一種です。

有機化学系の研究室ではままやっているのかしら?単純に有機化学のお勉強になるので、その意味で非常にいいと思う。

反応機構を書きまくることで、しょっちゅう出てくる保護/脱保護や酸化還元の試薬や反応機構は覚えちゃうし、「なるほど大抵の有機化学反応は求核試薬が求電子試薬を攻撃することで進行するのだな」「なるほどカルボニルはルイス酸で活性化させて求核試薬が付加するのだな」「なるほどカップリング反応の触媒サイクルはこう回るのだな」「なるほどエナンチオ選択的合成反応開発には需要があるな」「なるほどこの反応は立体選択性の制御が大変そうだな」「なるほどこの段階が鍵反応で、それ以外は分かり切ったプロトコルなのだな」「確かにこの合成スキームはあんまりエレガントじゃないな」とかこの辺が少しづつ感覚で分かってくるようになるので、とても実になるゼミなのではないでしょうか。

 

平均10-15ページ、長くしようと思えばどんどん長くなりますね。蛇足ですが、この間の4月に本家Jounal Clubで私は35ページの大作を投稿しました。

ch2cl2.hatenablog.com

 

 

同期のU君が4年生の時に言っていましたけど、このJounal Clubって要はオナニーショーなんですよ。私は有機化学の反応機構その他についてこれほど理解していますよ、と周囲にアピールする会なのです。だから自分が満足するように、とことんまでこだわって作るのが正解だと思っています。

…これ男子学生が言うからギリギリ許されるのであって、同じ言葉を私が使う訳にはいかないところに一抹の悲しみがあるな。

 

 

 

JCEとは何を目的に行うべきなのか

さてでは今回のJCEの目的ですが、助教先生からちらっと聞いた話を私なりに解釈したので、助教先生の思っている本当の目的は違うかもしれませんが、まあ今の私はこう解釈しているという意味で以下に記録しておきます。

 

・学生に論文を読む機会を強制的に与えること、ひいては論文を読む習慣をつけさせること。論文の言い回しに慣れさせること。

・論文を斜め読みする能力を身に付けること。論文を見て、重要な内容がどのあたりに書いてありそうか理解できるようになること。論文の構成はどのようなものか理解すること。

・論文の言いたいことを端的にまとめてアウトプットする能力を身に付けること。

・ついでに、研究内容を他人に分かりやすいようにプレゼンする能力を身に付けること。ゼミの質疑応答を通じて、研究に対する質疑応答の練習をすること。

・そして、自分の研究の周辺分野の理解を深めること。また、自分の研究への関連に関わらず、最新の研究トピックについての広く浅い理解を得ること。

 

以上、このあたりが、JCEの目的だと私は解釈しています。

助教先生曰く、「俺は前の旧帝大助教していた時、門下の学生には週一でこれをやらせてたけどね」とのことで、サクサク沢山論文を読むことを第一の目的としている会なのだと、私は解釈している。

助教先生曰く、1-2時間程度でサクっと作ってどんどん沢山論文を読んで欲しいらしい。

 

(今回私が原稿を作るのに何時間かかったか記録を見返してみた。おそらく10時間くらいかけている。初回ということと、専門外の分野すぎて用語のお勉強に時間をかけすぎたせいだと思いたい。あとconclusionを最初に読めばよかった、これは本当に反省。ただ、自粛期間の実験の代わりとして出されいてる課題なので、それなりに読み込むこと が求められているのかもしれない。)

 

 

 

「俺は前の旧帝大助教していた時、門下の学生には週一でこれをやらせてたけどね」

私、この言葉はJounal Clubの発表直後に聞いたのですよ。自分的に満足のいくクオリティの文献紹介を発表して満足していた心に水を差され、まるで私の3年間は無駄立ったと言われたかのように解釈した私は、日曜日に誰もいない研究室で椅子を蹴り飛ばし酢エチの試薬瓶を叩き割り暴れまわったのですね。

↓その時の心の叫びを書いた記事。

ch2cl2.hatenablog.com

(我ながら認知の歪みがひどいと冷静な私は思うが、心の奥の私は今でもとても共感する。つまりこの思考回路は普段は封印しているだけで、常に思ってはいるのですよね)

 

 

 

 

で、上記の助教先生の言葉にきちんと煽られた私は、自主的に週一でJCEをシコシコ作成したのですね。

面倒くさく思っても、助教先生に煽られたと感じた悔しい気持ちを思い出し、せっせと論文を読んだ訳です。今回の発表版は6作目です。

流石にコアタイム中にやるわけにはいかないから、週2で研究室に泊まって仕上げました。助教は1-2時間で仕上げろよと言うけど、結局3-4時間くらいはかかってしまう。もっとこなれたら短時間で出来るようになるかしら。

クオリティよりも仕上げること、続けることを合言葉に、数時間かけてできなかったところは出来ないで諦めている。

論文の選択はJACSのCorrent issueから直感で行っています。私の研究に比較的近い超分子合成系から、ゴリゴリ反応開発家系から、バランスよく選ぶようにしている。

反応開発の論文って、本当にプロトコルがはっきりしているからすぐ論旨が分かって、ぶっちゃけ手抜きしたい週に選択していました。

 

これまでの6作のJCEを振り返って

・まず、論文を読み物として読むのって楽しいのだな。知らない分野の知識を得ることは楽しいのだな、と思いました。これは私の研究にどう応用すればいいのだろうか…とかを考えずに、ただただ、この研究凄いなぁ、面白いなぁ、interestingだなぁ、と思いながら読むのは面白いです。特にJACSなんてキャッチーで面白い論文が多いですから、読んでいて面白いですね。

JCEとして内容をアウトプットする必要があると思うと、論文を読むモチベーションになります。ただ読むだけだとどうしてもモチベーションが上がらない。

・introductionを読むのが一番時間かかるし、一番面白いですね。イントロ読んだら結構満足してしまう。要は何をやって何がすごいと主張しているのかは、全部イントロに書いてあるし。イントロはそうであるべきだし。

・ぶっちゃけまだまだ機械翻訳に頼り切った方が早く読める。ちょっと反省はしている。用語はできるだけ英語で確認するようにしている。

・私の研究内容に近すぎると、「世は人々はこんな素晴らしくて面白くて実用性の高く、化学界に大きくインパクトを残す成果を出しているのに、対して私は何とちっぽけでインパクトファクターの低い研究を行っているのだ」と悲しくて仕方がなくなるので、あんまり読みたくない。いや、そういうのこそ読む必要があることは分かるのですが。

 

 

新聞のように論文雑誌を読むということ

先ほど暴れまわった前日にね、助教先生に論文誌の読み方というものを教わったのですよ。

「デスクトップにJACSとAngew(化学業界の2大雑誌)のcorrent issueのページをブックマークしておいてだな、そこを眺めるんだよ。もう図だけ眺めるの。それでふーんこんな論文なの、って思うじゃん。で、気になるものがあったらリンクを飛ぶの。そんでまた論文の図だけ眺めるんだよね。それでまあ大体何をやった論文かは図だけ見ても大体分かるから、それで、「ふーん」と思って終了。ACS(出版社)の雑誌の論文なら1クリックでmendeley(文献管理ソフト)に登録してくれるボタンがあるから、そこ押しといて、さらにめっちゃ気になったり精読すべきだと思ったら、読む感じ。雑誌いっぱいあるけどとりあえずJACSと Angew読んどけば十分だよ。まあこんな感じに、我々教授陣も、論文めっちゃ見ているけど、全部読んでいる訳ではないんだよね。これ見たことあんな、とふわった把握している程度。だからこそ学生には自分の研究分野ドンピシャの論文は、きちんと読んで把握して欲しい。」

とのこと。

 

私これを言われて悔しすぎて、これをブログに書き起こす気になるのに1ヶ月を要した。これをしてこなかった私の3年間は無駄だったと言われたかごとく悔しかった。

 

ただ、これをようやくこなせるのってM3になったからだとは思っているのよね。M1まではさ、私の研究をどうにかこなすのに精いっぱいで、他人の研究内容になんか興味を払う余裕が無かったというか。なのでこれは運命のタイミングだったのだなと思おう。私は運命論者なのだ。

 

 

 

 

以上。

1週間も休んだらすっかり5月病だけど、まあ再開したらどうにかやる気 が復活すると思っているので、まあ頑張りましょう。

これからもシコシコ週一でJCEの原稿を夜長に書き上げますわ。