大学院生の引きこもりが3年かけて卒業を目指す日記

東京の大学院で毎日楽しく実験をしています。うっかり留年が決まったので3年で卒業できるよう頑張ります。専攻は有機化学。構造有機化学、合成有機化学、遷移金属触媒反応、超分子、ロタキサン。お酒と地下アイドルとシュミレーションゲームが好き。twitter:https://twitter.com/ch2cl21?s=09/

不安定=高い反応性を理解したとき

化学にまつわる概念で特に印象に残っていること。

不安定=高い反応性」が結びついたとき、非常に感動したことを覚えている。

 

最初に理解したのは高校2年生のときだったとは思う。あまり覚えてはいない。

当時の私は化学物質に対し、「良い」「悪い」の二元論でしか考えていなかった。不安定な物質は悪い物質、高反応性な物質はいい物質、と勝手に思っていた。しかし化学Iの授業で様々な概念を学んでいるうちに、どうやらその二つの性質はほぼ同じことを指しているっぽいぞ、と理解した。つまり同じ物質でも見方によって良いとも悪いともいえるのである。

 

 

 

現在研究室で研究をやっていて、さらに新たに染み付いた概念は、「高い反応性=危険=扱いにくい」ということである。

例えば反応試薬の検討を行う場合、目的の反応性が進行するギリギリの低さの反応性を試薬を選ぶ作業は非常に面白い。できるだけ安定で扱いやすい試薬を選択したいのだが、目的の反応が進行しなければ意味が無いので、どの試薬が最適か考える必要がある。

反応基質に関しても、適切な安定性-反応性の物質が最も望ましい。安定な基質は適当に保存していても大丈夫であるが、その分反応しにくいので次の反応の際に加熱などの過激な条件が必要だったりする。反対に室温で分解してしまうような不安定な物質は、基本的に扱いづらいので好まれないのだが、それは様々な反応が容易に進行することの裏返しでもあるため、場合によってはそのような基質が望まれることもあるのである。

 

さらに具体例を挙げると、還元剤・リチオ化剤・塩基などを選択する場合が一番分かりやすいかな。

化学系の学部生が習う最も有名な2つの還元剤は、NaBH4とLiAlH4(LAH, ラー)である。どちらもヒドリド(H-)を放出することで、カルボニル化合物をアルコールへ還元することが出来る、非常にポピュラーな試薬である。

これらの還元剤の反応性は、NaBH4 < LiAlH4である。NaBH4はアルデヒド・ケトンしか還元できないが、LiAlH4はそれらに加えてエステル・カルボン酸も還元可能である。

では何でもかんでもLiAlH4で還元したいかと言うとそんなことはない。LiAlH4は非常に危険な試薬だからである。

NaBH4は適当に扱っても問題ない試薬で、学生実験でも使用されるが、LiAlH4は静電気などの微弱な刺激により容易に発火するため、非常に危険で取り扱いに注意が必要な試薬である。当研究室ではここ3年で4回LiAlH4を発火させている。そのうち1回は私である。そのため、NaBH4で問題が無いのであればできるだけそちらで済ませたい。

このような感覚は実際にその試薬を扱ってみないと身につかない。私が学部生の時、「どうして2種類も還元剤を覚える必要があるのか。1つでいいじゃないか、面倒くさいなぁ」と思っていたが、紙の上だけでは分からない沢山の事情があることを、実際に実験を行うようになって理解した。紙の上で分かりやすい反応と、実際に反応を行う上でやりやすい反応は全く異なるのである。

 

リチオ化剤(n-BuLi<t-BuLi)や塩基(例えばK2CO3<NaOH<LDA)などにもそのようなことが言える。さらに単純な反応性だけではない、基質特異性や試薬の値段などのファクターを加味して、適切な試薬を選択する必要がある。

 

一応言っておくと、これらの試薬の選択は非常に難しいのではないかと思うのかもしれないが、そんなことはない。100年以上続く有機化学の歴史によってポピュラーに体系化されており、いわば無数のマニュアルが有機化学界に転がっている状態であるため、そのマニュアルに従うという印象が強い。ある反応を行いたいときのファーストチョイスは、研究室の経験則的な言語化出来ないものも含め、大抵はある程度確立されている。

例えば脱メチル化反応のファーストチョイスはBBr3だと思う。それでだめなら5種類くらいメジャーな試薬はあるので、それらを試してみて反応がうまくいく条件を探すし、鈴木宮浦反応や薗頭反応等のPd系カップリング反応で使用するPd源のファーストチョイスはPd(PPh3)4だと自分は思っているし、それでだめならさらに好反応性のものを順番に試していく。参考にできる論文は沢山転がっているので、それらを参考にする。

これらの「知見」を参考に、適切な条件を選択する作業は私は結構好きである。有機化学の面白いところのひとつだと思う。

 

 

以上、思いついたことをだらだらと書いた。

こうやって言語化すると、成績が底辺だったとはいえ一応大学で知識付けたんだな、私、と思えますね。

 

 

本日は以上。