大学院生の引きこもりが3年かけて卒業を目指す日記

東京の大学院で毎日楽しく実験をしています。うっかり留年が決まったので3年で卒業できるよう頑張ります。専攻は有機化学。構造有機化学、合成有機化学、遷移金属触媒反応、超分子、ロタキサン。お酒と地下アイドルとシュミレーションゲームが好き。twitter:https://twitter.com/ch2cl21?s=09/

合成と反応開発―研究の分類について

 研究室に入る前の3年生の私に情報を与えるとしたらどうするかなー、と考えながら語っていく。

 私も狭い範囲のことしか知らないから、その道の人に言わせれば頓珍漢なことを言ってしまうかもしれない。そこは念頭において宜しくお願いします。ポンコツ修士学生の今の解釈です。特に私の専門からは遠い研究分野に対する知識は全然足りていないと思います。

 

合成と反応開発―研究目的による分類

 有機化学と言っても広いので、様々な研究があります。色々な分類法がありますが、その一つを紹介します。研究とはどんなものかということをざっくりイメージすることが出来れば嬉しいです。
 有機化学の研究分野はざっくり「合成」と「反応開発」の2つに分けることが出来ます。研究目的・研究手法による分類といえると思います。

 合成/反応開発をお堅い言葉で言い直せば、「合成有機化学」と「反応有機化学」になります。これらの言葉は各研究室で扱っているジャンルなどに書いてあるかと思います。どちらともいえない・どちらにもまたがっている研究領域などもあるのですが、まあ解説していきます。

 ちなみに私の研究テーマはどちらかと言えば合成研究です。私は反応開発より合成の方が好きです。 

 

1. 合成

 合成研究は、ある化合物を「合成」することが目標の研究です。そのままですね。

 その中でも「合成ターゲットがはっきりしている研究」と、「ターゲットのデザインから必要な研究」にざっくり分けられるイメージです。この分類は私の解釈なので適切かは分かりません。

 

1-1. 合成ターゲットがはっきりしている研究

 「合成ターゲットがはっきりしている研究」の最も分かりやすい例は、天然物合成研究でしょうか。薬に使われる化合物や、植物に含まれる化合物の人工的な合成などですね。目的物の有用性が高いものなどは複数のルートでの合成が報告され、ステップ数や収率を競っているようです。例えばフグ毒のテトロドトキシンの全合成研究例はwikipediaに載っているだけでも4研究室での報告があります。天然物合成研究は私の所属する研究室では全く扱っていないので詳しくないのですが、有機化学界の1大ジャンルだと思います。我々も有機化学のお勉強のためだけに定期的に全合成研究の論文を読みます。学部時代にも天然物合成スキームを参考に有機化学反応を勉強する授業がありました。したがって学部生には比較的イメージしやすい研究ジャンルなのではないでしょうか。なので私も3年生の頃は全合成研究をやりたいと思っていました。

 この分野に関して、「どうせ実用化には使えないこんな合成ルートを作って何の意味があるのだ」「収率を数%向上させるためだけにどうしてこんな苦労をしなければならないのだ」「開発した新規反応を使った全合成をやってみたいからと言ってこんなものを作らせやがって」と言った根本的な嘆きをインターネット上で目にした記憶はあります。まあこの手の嘆きはどのジャンルでもありますからね。各々でやりがいを見つけるしかありませんね。

 合成研究でよくある研究上の壁として、「この反応が進行しないから条件を沢山振る」「反応の選択性が悪い」「結局うまくいかないから合成ルートを根本的に変更する」と言ったことがあるあるですね。網羅的で幅広い有機化学反応の知識と、合成スキームをチョイスするセンスが醍醐味な研究分野ではないでしょうか。

 私のB4の時の研究は、このような「出来さえすればいい」有機合成研究でしたね。ターゲットの化合物は教授から指定されて、1から合成スキームの検討を行いました。ある反応がちっともうまくいかなくて合成スキームを1から練り直したり、原料合成のために大スケールで合成してみたらちっともうまくいかなかったり、紆余曲折ありつつも結局1年かけて目的物の合成を達成しました。

 

1-2. ターゲットのデザインから必要な研究

 抽象的に言えば、ある特定の特徴を示す化合物を合成したい、と言ったテーマが典型的でだと思います。この特徴を専門用語で「物性」と言います。すなわちある化合物が合成できたとしても、特定の物性を示さなければ意味が無いのです。ですから「目的の物性を示す化合物はどのような構造ならばいいだろうか?」が研究のスタートになります。逆に言えば目的の物性さえ満たせば、具体的な構造は何でもいいわけです。

 うーん、分かりやすい例はないかなぁ。「特定の金属のみをキャッチするような化合物をなんでもいいから作りたい」とか、「温度やpHの変化などで任意に構造が変化する化合物をなんでもいいから作りたい」とかをよく見る印象です。いわゆる材料方面の研究に近くなってきますね。物理化学や無機化学、生物化学などの知見が必要な、複合的な領域の研究も多くあります。この手のテーマは、合成技術だけにとどまらず、分析手法や他分野領域などの幅広い知識と技術を得られることが特にやりがいではないでしょうか。

 先に述べた天然物合成にも、おそらくこの手の研究はあると思います。「特定の生物に対して薬理活性を持つ化合物をみつける」などが典型でしょうか。

 

1-3. 私の研究室の話

(書いてから思ったがこの話はめちゃくちゃ守秘義務に違反すると思うので公開してはならないな。

 

 という訳で全カットです。せっかく書いたのに…悲しい…。どの辺まで公開しても守秘義務違反にならないか、今度暇なときに助教にでも聞こうと思います。

 

2. 反応開発

 合成と双璧をなす有機化学研究の分野である反応開発です。この分野の目的は「新しい化学反応を開発する」になります。学部時代に様々な種類の反応を習ったと思いますが、その中でまだ生み出されていない反応を新たに生み出すということですね。反応開発もやはり有機化学の花形な印象があります。

 

 反応開発の中にもいろいろと分類があると思いますが、私は扱っていないためあまり詳しくありません。パッと思いつくよくある新規性は

  • 既存の反応よりも効率がいい(低温・短時間・高収率)
  • より安価な試薬を利用する(金属の種類を安価にすることが多い)
  • より安全・単純な反応
  • その反応によってできる化合物が新しい
  • 高選択性(複数の化合物/異性体/立体化学などをよりよく制御している)

 などでしょうか。

 各研究室で得意とする分野があるので、その分野を拡張した反応、その分野を利用した反応の開発研究を行うこととなります。

 私自身は合成の方のテーマ群にいますが、研究室内には反応開発を行っているメンバーもおり、彼らの研究を横目で見ていて感じたことを以下つらつらと書きます。

 

 反応開発の醍醐味は何といっても条件検討ではないでしょうか。いかに短時間で最適条件を見つけるかは各人のセンスが光る場面だと思います。

 また、反応開発の人が特に得られる能力として、論文を読む能力が挙げられると思います。最適な条件の検討を行うためには数多くの論文を読む必要があります。周辺分野の様々な論文を参考にして様々な条件を検討するからです。基質、塩基、配位子、溶媒、温度など、様々な条件を最適化します。専門用語でスクリーニング、と言うこともありますね。

 合成研究を行う我々も、合成中の反応に躓いたら同様に論文を読んで条件検討を行いますが、反応開発の方はその条件検討が仕事のようなものですからね。読んでいる論文数がケタ違いだと思います。

 さらに、開発した新しい反応の反応機構の解明も行う必要があります。そのためにも周辺分野の論文を読み込むことは必須ですし、そのあたりの理解のための基礎知識は必要になります。

 また、自分の行っている研究が類似の研究と比較してどの点が優れているか語れる必要がありますから、周辺分野の論文を読み込むことは必須です(これは合成の人々も行う必要がありますが)。

 それから行う実験数も格段に多いですね。研究テーマの種類や研究の段階にも拠りますが、収率1つのデータが分かればよいことが多いので、かけようと思えば一日に何実験も同時にかけることが出来ます。1日に25個反応をかけて条件のスクリーニングを行った話や、半年で1500実験行った助教の話などを聞いたことがあります。

 

終わりに

 有機化学研究の2大分野である、合成と反応開発について語りました。私の独断と偏見による解説なので、一応話半分で聞いてください。私が合成研究を行っているので、合成方面のことばかり詳しく書いてしまいました。

 合成と反応開発は相互に関係し合う分野です。反応開発で新たに生まれた反応を合成へ応用する、合成研究で得られた知見をもとに新しい反応を開発する、そういった関係です。そのため研究室では合成と反応開発をどちらかを行うという訳ではなく、2つの分野が相互に関係し合って研究が進んでいきます。ただ学生個人レベルでは大抵どちらかを重点的に行いますから、自分はどちらの方がやりがいが感じられそうか、考えてみてもいいかもしれません。

 合成/反応開発以外にも、様々な観点で研究分野を特徴づけることが出来ます。

  • バイオ(生物化学)・物理化学・無機化学いずれに近い分野なのか
  • 成果がすぐに出るか/長期的に成果を生み出すか
  • 実用に近いか/基礎的な研究か

などなど。それぞれの観点について、自分はどちらの方がやりたい/どちらでもいい/分からないを考えてみると、研究室選びの指標の一つになるかもしれません。

 どれも本質的な目的や、研究室で行う作業に大きな違いはありません。毎日実験を行って、その結果を考察して、次の手を考える。この繰り返しです。

 

 ついでに述べると、研究室選びは研究分野も大事ですが、それと同じくらいかそれ以上に研究室の文化がとても大事です。各々の研究室に特徴があると思いますので、色々見学して判断してみるといいと思います。

 私はエクセルで各研究室の各評価項目に〇×をつけて点数を付けていました。しかしそれでも結局最後は直感で研究室を選びました。結果的に正解だったと思います。研究室生活はとても楽しいです。

 人によって良い悪いの判断基準は違います。ですから他の人の意見を参考程度に聞くのはいいですが、最終的には自分で決断することが大切だと思います。それが後悔しないことにつながります。ちなみに私が今の研究室を選んだ最終的な決め手は、「変わったヤツが沢山いる」と見学で聞いたからです。

 

 

 

 

 

べらべら語りました。

化学専攻の3年生が読んで分かる文章を目標に書いたけれども、専門用語を結構使ったので伝わらない気がしてきた…。いつか気が向いたらもう少し平易に修正します。

また筆が乗りまくって5000字も書いてしまった。所要時間4時間、飯も忘れてぶっ続けで書きました。楽しかったです。こういったブログ記事って、筆が乗ったときに勢いで書き上げないと書けないですからね。集中して書けてよかったです。普段から思っていたけれど話す相手がいないことを、いい機会にアウトプット出来てよかったです。

 

本日は以上。